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5.内部被曝を防ぐにはのページへ進む
4.統計的な考え方、使い方について考えよう。
最近の地球の温暖化を問題にするにも何年からの雨量や平均気温のデータを問題にするか、
また何年毎にまとめてデータを見たらいいのか、いろいろと難しいことがある。
極端な言い方をすると問題になるけれど、誰でも意識するか、しないかに関わらず、
データは自分の言いたいことがはっきりするようにまとめたりするものではないでしょうか。
ここにベラルーシにおける子どもの甲状腺患者の増加を示すグラフがある。
元は同じデータからでもこんなに見方が違うのです。真実はどこにあるかを考えてみよう。
少なくともどの専門家の言うことが本当か見抜くことができるようにしたいと思います。
このグラフを見て皆さんは次の二つの考えのうちどちらが正しいと考えますか。
岩波書店『科学Nov.2012』牧野淳一郎「3.11以後の科学リテラシーNo.2」より |
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セシウムの影響をここでまとめると25年目の報告でもセシウムの影響は認められていない。
疫学的に現在使用されている調査資料は、汚染地域を多数抱えるベラルーシの癌登録制度をもとにしている。
これにより、毎年の子どもの癌の発生が正確に観察されている。
甲状腺癌は、図のように子どもで急激に増加し、2002年から子どもの増加は認められなくなっている。
甲状腺癌以外の固形癌、白血病は1986年以来有意の変化を示していない。
cf. 『原子力災害に学ぶ放射線の健康影響とその対策』長瀧重信著 丸善出版 p.66
岩波書店『科学Nov.2012』牧野淳一郎「3.11以後の科学リテラシーNo.2」より
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2002年になれば事故があった1986年に生まれていた、あるいは胎児であった人はすべて14歳以上になっています。
ですから、2002年に0~14歳の子どもは自身が甲状腺に内部被曝している可能性はありません。
1995年からどんどん減少して2002年には0になっています。
2002年の0~14歳児はすべて原発事故より1年以上後に生まれていますから、
これは原発事故による甲状腺被曝がない子どもでは甲状腺癌が少ないということです。
甲状腺癌の増加は検査が詳しくなったせいであれば、こうはならず、原発事故の後に生まれた子どもでも甲状腺癌が増えているはずです。
これらの子どもでは増加しているはずがないという考えからそもそも検査していない、といった可能性も考えられますが、
これは、そうであるという証拠がない限り受け入れ難いように思います。
また、甲状腺癌の半分程度のゴメリ地区で発生しており、これも検査が詳しくなったせい、ということではとても説明できません。
一方、15~18歳を見ると、2001年になってピークの10万人当たり11.3人になります。6年前の1995年には3.8人でしたから、
1986年に0~3歳だった人が15~18歳になって甲状腺癌になる割合は、同じ1986年
に6~9歳だった人の3倍程度であるということです。
さらに19~34歳になると、2002年まで甲状腺癌がどんどん上昇しています。・・・・
- 2003年以降の発症は考慮されていない
- 1986年に18歳以上だった人は考慮されていない
- ベラルーシ、ウクライナ、その他旧ソ連の汚染のひどかった4地域以外は考慮されていない
ということがわかります。
ベラルーシについて、全年齢の甲状腺癌の発生率を示したグラフがあります。・・・・
cf. 「3.11以後の科学リテラシーno.02」牧野淳一郎『科学 Nov.2012』 p.1188
どちらの考えが正しいかわかりますか。
さらにチェルノブイリの資料
1.『低線量放射線被曝 チェルノブイリから福島へ』
参考になるウクライナの被災地の資料も紹介する。今中哲二著 岩波書店 p.48
放射線汚染の影響
岩波書店今中哲二著『低線量放射線被曝』より |
一方チェルノブイリ原発による放射線汚染の影響がどうだったかといいますと、まずは子どもたちの甲状腺癌です。
図10はウクライナの子どもたちの甲状腺癌のグラフです。
横に年があります。濃い陰影のところは15~18歳。事故から4年後の1990年ぐらいから甲状腺癌が増えてきています。
これはどういうことかと言いますと、86年の4月26日に事故があって、だいたい10日間くらい大量の放射能の放出がありました。
そのなかにはさまざまな核種の放射能がありますけれども、比較的遠くまで大量の汚染をもたらしたのは放射性セシウムと放射性ヨウ素です。
ヨウ素は牧草にまず降り積もり、その牧草を牛が食べて、牛乳の中に排出されます。それを子どもたちが飲んだということです。
このグラフはチェルノブイリ事故のときの年齢で表現されていることに注目したい。
2.『低線量汚染地域からの報告 チェルノブイリ26年後の健康被害』
馬場朝子・山内太郎NHK出版 p.80
ウクライナ内分泌代謝研究センター副院長ワレリー・テレシェンコ医師の話
NHK出版 馬場・山内著『低線量汚染地域からの報告』より |
「現在、チェルノブイリ事故の影響により甲状腺がんの罹患率が上がっています。
チェルノブイリ事故から4年経過するまで、つまり、1990年から、甲状腺がんの罹患率が上昇しはじめました。
チェルノブイリ事故前は全世界においてわが国だけでなくアメリカでも日本でも、甲状腺がんはめったにない疾病でした。・・・」
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