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3.物事を平均して考えてはいけないことがある

【問題8】微粒子となったプルトニウム-239による内部被曝
東京電力福島第1発電所の事故ではあまり飛散していないとはいうものの、
3号機の燃料はMOXであり、燃料棒として大量のプルトニウムが使われている。
原子炉が冷却材喪失によりメルトダウンしたことにより、プルトニウムは酸化され、微粒子になり、飛び出していることが考えられる。
1μmの微粒子となったプルトニウム-239を肺臓1kg当たり1個吸い込んだときの被曝について考えよう。

微粒子となったPu239による内部被曝

1μm=10-6m=10-4cm
94Pu239の出す放射線はアルファ線でそのエネルギーは5[MeV]、半減期はT=2万4千年である。
大きさ1μmの微粒子の中にはいろいろな放射性物質が存在すると思うが、ここではすべてがプルトニウムとして扱う。微粒子にある94Pu239の原子数を求めてみよう。
体積1[cm3]の固体の中には原子数=108*108*108=1024
微粒子の体積1[μm3]=10-12[cm3]である。
94Pu239の原子数=1024*10-12
=1012
=1兆個
原子核の崩壊の式より崩壊数を求めると

dN/dt=λN= (loge2/2.4/109/365/24/60/60) *1012

=0.9158[Bq]

体内の1兆個ものプルトニウムが同じ場所で絶えず1ベクレルで5[MeV]のα線を出し続けるということである。
長崎の被爆者の病理標本から現在もα線が観測されるという。
cf. 『被爆者医療から見た原発事故』郷地秀夫著 かもがわ出版 p.38 p.39
(5) 証明された被爆者の放射性微粒子による内部被曝
(6) 福島で測定されないα線、β線・内部被曝

ではこの94Pu239の微粒子による内部被曝の線量当量を求めてみよう。

E=5*106*1.6*10-19*loge2*1012*365*24*60*60/(2.4*104*365*24*60*60)
=2.31*10-5[J/kg・年]

α線の放射線荷重係数20を考慮し臓器質量1kg当たりの被曝線量当量を求めると、
0.46[mSv/年]となる。
ここで注意すべきは、被曝エネルギーを臓器全体で平均していることである。
国際放射線防護委員会(ICRP)の考えはこの立場をとっている。
呼吸によって肺胞に吸着し、そこでα線を出し続けるのである。α線は体内では飛程30μmのうちですべてのエネルギーを失うことを考えないといけない。
この被曝する範囲内で平均する被曝線量当量はいくらになるのだろうか。
被曝を受けた部分の細胞の質量は
m=(30*10-6)3*103=2.7*10-11[kg]
であるから
被曝線量当量は20・E/m=1.71*107[Sv/年]
ここでは大変極端な仮定の下に計算しているが、この平均の仕方の違いを考慮し、内部被曝は外部被曝と影響は質的に違っていることを認識しなければならない。
欧州放射線リスク委員会は内部被曝実効線量と外部被曝との比率は、600倍という数字を出している。参考にしなければならない。
別に論じなければならないが、劣化ウラン弾の場合もこの場合と同じようにエアロル1μm粒子による内部被曝の局所性を考えなければならない。

3.2 ラジウム温泉は安全か、危険ではないか?

【問題9】ラジウム温泉は安全か、危険ではないか?
『原子力災害に学ぶ放射線の健康影響とその対策』長瀧重信著 丸善出版のp.3に以下のような記述があったので計算してみることにした。
ラジウム温泉は健康によいと日本でも人気があり、多くの人が温泉に入りまた温泉水を飲んでいる。
ラジウム温泉と宣伝するためには放射能が最低1000[Bq/L]以上必要であると決められている。
この基準では食べものとして体内に取り入れてはいけないレベルだと思うが、1000[Bq/L]の温泉水を100mL飲むとどれだけの放射性ラジウム原子が入ってくるのだろう。

ラジウム温泉水100mlを飲んだときに放射性ラジウムが身体に入り、どれだけの内部被曝を起こすのか 放射性ラジウムには半減期1620年でα崩壊(4.78[MeV]と4.59[MeV])の88Ra226の他にも、
半減期11.7日でα崩壊する88Ra223、半減期6.7年でβ崩壊する88Ra228
半減期3.7日でα崩壊する88Ra224といろいろあるが、
ここでは半減期の一番長い88Ra226で計算する。
1000[Bq/L]の温泉水を100mL飲むと100[Bq]の放射能が身体の中に入ってくる。
崩壊定数と半減期との関係を利用し、放射性核種の崩壊の法則を使えば

1000÷10=(0.69314718/1.62/103/365/24/60/60)*N

このとき体内に入ってくるラジウムの原子数は
N=7.37*1012
となる。
ラジウムは化学的性質がカルシウムと似ているため骨にたまる。その生物学的半減期も45年と長く、排出されない。
さらにこのラジウムはウラン-238から始まる一連の崩壊系列中にある途中の核種であり、放射能を出し続けて次から次へと崩壊していくことが問題である。
ではこの温泉水を体重60kgの人が100mLを飲んだときどれだけ放射性ラジウム88Ra226による内部被曝するか計算してみよう。
α線の放射線荷重係数が20として、1kgの組織が1年間に吸収するエネルギーから内部被曝の線量当量を求める。ただし、すべて身体に吸収するものとして計算する。
E=(1000÷10)*365*24*60*60*4.68*106*1.6*10-19*20÷60
=7.87*10-4[Sv/年]
=0.787[mSv/年]

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