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カラー段ボール楽器

1 物理なんて大嫌い

 科学技術時代に科学を受けつけない状況が蔓延する。自然科学と技術が発達したおかげで、生活も豊かで楽しく過ごせるようになってきた。
スイッチひとつで楽しくきれいなテレビを見られる。こたつに入ったまま、リモコンでチャンネルも変えられる。好きな番組はビデオで録画しておけば、後で何度でも見ることができる。
スイッチひとつで何事も簡単にできる大変すばらしい生活ができるようになったが、その中身はぜんぜん分かっていない。
テレビを例にして考えると、スイッチひとつで楽しい番組が現れ、画面がきれいなことが当たり前であり、故障して好きな番組が見られない方が不思議となってしまっている。
このように科学が発達すればするほどわれわれの生活は、科学技術の成果にどっぷりとつかりながら、その中身は分からず、科学は我々からますます遠ざかり何も分からなくなってきている。
 この現実に応えるべき理科教育はどうなっているであろうか。 向陽論叢復刊11号の中で述べたように、残念ながら現在多くの生徒が、理科の授業について、「面白くない、分からない、くだらない・・・・・」などといい、理科を学べば学ぶほど嫌いになっていく。
その中でも物理は特に嫌われ、新しい教育課程に選択が導入されたことにより、全国的には物理の教員が半分以上も必要でなくなり、
我々の仲間の教師も物理を教えられなくなり、やむをえず専門外の科目を教えている。
 では科学技術は高度に発達してきた中での科学教育に必要なものは何だろう。
あの考え、このやり方でやれば万事うまくいくというような法則は高校の理科教育の中にまだ見つかっていない。
科学技術が発達したんだから、コンピュータなど最先端の科学技術を利用した製品を導入するのがよいという意見もあるが、これではだめである。
科学技術が発達すればするほど我々の生活が科学から遠ざけられてきたことと同じで、理科を学べば学ぶほど嫌いになっていくような生徒の現実に応えていくことにならない。
愛知の理科教育運動として進めてきた投げ込み教材運動の中で、授業の中で生徒が沸きに沸き、
目を輝かせて喜ぶということを唯一の基準として私たちが見つけてきたものは、科学は専門家だけでなく素人でも楽しめる事を分からせてくれるものである。

具体的に挙げてみると、
  1. 素朴でどこにでもある材料で簡単に作れて面白いもの
  2. 原理がむき出しでよく分かるもの
  3. ブラックボックスの覆いをはがし、現代科学技術のからくりを教えてくれるもの
などである。
 一般国民が科学する喜びを取り戻すときである。学問は本来楽しいものである。自然科学が生まれてくる頃の科学者は研究とは別に職業を持っていた。
自然科学の研究が楽しく、面白くてたまらないから彼らは自然の謎を解く研究をした。私たちもこの初期の科学者の科学する心を取り戻そうではないか。

2 歯車楽器がさらに進化

 『いきいき物理わくわく実験』(新生出版 現在は日本評論社から改訂版が出版されている)の中で私たちは楽器シリーズを紹介した。
小さい工夫でもよいから、自分で考え作った教材をサークルに持ち寄れば、それをきっかけにして、それぞれ考えの違う人たちが思い思いにそれを発展させ、各種の教材が生まれてくる。
一人ひとりのメンバーが自分の興味に従って研究をすればよい。教える立場の我々自身がいきいきと研究することの大切さを訴えたのである。
 さらに楽器にこだわり続けてその後私が作ったものをここで紹介しよう。始めに作った歯車楽器を製作はたいへんであった。
始めには鋳物用の木型を作り、その鋳型に熔けたアルミニウムを流し込み、できたアルミニウムの鋳物から旋盤で完全な円板を作る。
それから歯車の歯を切る機械にかける等と機会の専門家の力を必要としているし、費用もかかる。
市販の歯車を利用するにしても歯車の大きさによって軸を通す穴の大きさも異なり、どうしても機械の専門家に協力してもらわないと実現できない。
 幅広く普及させるには、何とかして素人が誰でもやってみようという気になれるような材料で作りたい。
科学教育研究協議会全国大会では、他県の人からプラスチックの板で「サバールの輪」を作ったものを見せてもらったが、手先の不器用な私には向いていない。 こう思っているとき、子どもたちが図工の作品を作るのにカラーダンボールを使用していたことに気づき、
これを使用すれば手先の不器用な私にも簡単に、しかもきれいな歯車楽器ができると思った。東急ハンズに行ったとき、 このカラーダンボールの実物を手に入れ、長年暖めていたアイデアの教材を実現することができた。
自分で作ったもので音の高さの秘密が分かり、音階が出せれば愉快ではないか。子どもたちは音楽には特に興味を示し、
きちんとした曲になるようなものを弾いてやれば拍手喝采まちがいなしである。
本校の音楽の岡田先生にうかがったところ、演奏する者の立場からすると「ド」の位置がどこか、はっきりとしているとよい。
ハープでも「ド」の弦には赤い色がつけてあるとのこと。そこでカラーダンボールの色も「ド」の歯車は赤色にし、その他は黄色のカラーダンボールを使うことにした。

用意するもの

  1. 赤色と黄色のカラーダンボールB3の大きさ各1枚(391×543)
  2. バルサ材 1枚(100×900×15)
  3. 鉄棒 1本(φ5×300)
  4. ピアノ線 1本(φ2×50)
  5. アルミニウム製プーリー 2個(φ50とφ20)(ベニヤ板で自作できる) 輪ゴム 1個
  6. L型金具 高さ80mm程度 3個
  7. ラジコン用モーター 1個(ル・マン360STなどトルクのあるものがよい)
  8. 単一乾電池 2個 電池ホルダー 1個
  9. 取りつけようベニヤ板 1枚(200×400×10) 
  10. ゴムブッシュ 4個 ビス 10個(3×18) 3ミリナット10個 

作り方

 
  1. カラーダンボールをバルサ材の厚さ15ミリの幅によく切れるカッターで波の形が崩れないように注意して切る。
    鋏を使うと必要な波の形がつぶれてしまうので注意すること。
  2. 音階に必要な音の振動数の比より、波の数、カラーダンボールの長さおよびバルサ材円板の直径を計算により求める。
    東急ハンズで買ったカラーダンボールの場合、波の数を数えてみると波の数122個で383mmの長さとなっている。
    「ド」の音を出す歯車を例にカラーダンボールの長さとバルサ材円板の直径を計算してみよう。

カラーダンボールの長さをl1㎜、バルサ材円板の直径をD1とすると、
 388/122=l1/24
 l1=π×D1
 上記二式よりl1=76.3㎜、D1=24.3㎜となる。
今回作った歯車楽器では、2オクターブまで作ったので、各高さの音に必要なカラーダンボールの長さとバルサ材円板の直径を次に示す。

音名 必要な波の数 カラーダンボールの長さ バルサ材円板の直径
24 76.3㎜ 24.3㎜
27 85.9 27.3
30 95.4 30.4
32 101.8 32.4
36 114.5 36.4
40 127.2 40.5
45 143.1 45.6
C1 48 152.7 48.6
D1 54 171.7 54.7
E1 60 190.8 60.4
F1 64 203.5 64.8
G1 72 229.0 72.9
A1 80 254.4 81.0
B1 90 286.2 91.1
C1 96 305.3 97.2
  1. バルサ材の円板を糸のこ盤で上記の計算のように切り取る。糸のこ盤より自在錐の方が便利のように思ったが、
    中心の穴が大きくなりすぎてよくないので、面倒でも糸のこ盤を使うことにした。

  2. もっと簡単な方法があれば教えてください。少し大きめに切り取り、
    その後ときどきカラーダンボールを当てながらサンドペーパーで削り、現物あわせでちょうどよい大きさになるまで削っていく。
    そのとき中心が偏らないようにバルサ材にコンパスで円を描き調整する。
    円板ができたらその中心にφ5㎜の穴をあけ、円周にカラーダンボールを糊付けする。
    糊が乾くまで輪ゴムを軽くはめておく。
  3. すべての円板を順序よくφ5㎜の鉄棒に通し、φ50㎜のプーリーを取りつける。
    プーリーの穴の大きさが鉄棒の太さと合わなかったのでφ5㎜のドリルで穴を大きくした。
    使っている間にこすれて穴が大きくなって空回りしないように次の2点の工夫をする。

  4.  ア 途中鉄の棒にφ2㎜の穴をあけ、2×50のピアノ線を通し、ピアノ線の両端にくる円板をV字型の彫刻刀で削ってピアノ線がぴったりと入るようにする。
     イ 円板の両端に円管(スペーサー)とバネを置き、円板が空回りしないよう強く挟み込む。
  5. 2枚のL型金具にシャフト用の穴φ5.1㎜と取りつけ用の穴φ3㎜をあけ、台に取りつける。
    プーリーに輪ゴムをかけて歯車が回りやすい位置にモーターを取りつけて、適当な位置に単一2個用電池ホルダーを固定し,配線を終えれば、工作は完了。軸受け部分に油をさして、さあ、演奏だ。

演奏方法

モーターのスイッチを入れ、名詞や葉書をカラーダンボールに当ててやれば音が出る。紙の擦れ方で音が大きくなったり小さくなったりするので、よい音が出るように当てるものや当て方を工夫してみましょう。

まとめ

投げ込み教材運動論にあるように、科学とは専門家だけでなく素人でも楽しめることを分からせてくれる教材とその方法の開発に皆で協力していこう。
私も次にはサイレン式の楽器も作ってみたいと思っている。円板に同心円の円周上に穴の数が歯車楽器の数に一致するようにする。
円板を回転させたところに空気を吹きかけてやれば、サイレン式の楽器ができるはずだ。次回にでも紹介してみたいと思う。
名古屋市立向陽高等学校発行の「向陽論叢復刊12号」(1989年3月)より

【追記】
作ってみて初めてこの教材の弱点が分かりました。本物の歯車と違って軽くて慣性モーメントが小さいために演奏するときに回転数が落ちることです。直接歯車に接触せずに光で信号を拾うようにしないといけないことが分かりました。

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