バックナンバー

ご要望にお応えして!? 復刻版 週刊ビタミン詩ー!です。

『リ ボ ン』

人影が消えた街に 足音だけが聞こえる
振り返れば落ち葉が一枚 カラカラカラ笑っている
赤信号の点滅が鮮明に虚しい
そうか あれは時代の悲鳴だったのか 
いったい誰が治すことができるというのか

体を切れば血が流れます
心を切れば涙が流れます
わたしたちは天使でもないし
もちろん神さまでもない

車の中で 布団をかぶったままで
鉄橋の下で 一人で歌うのだ
仮面(マスク)とって 声涸れるまで歌うのだ
誰かが君のそばにいる
今こそ 明日にリボンをつけよう!


擦れ違っても言葉も 眼も合わさないままで
たまに微笑んでくれたと思ったら口裂き女だったりね
マンホールから地下鉄の悲鳴が聞こえてくる
面会謝絶の扉の向こう側に
優しさはこんなにも難しいものだったのか?

誰かが倒れそうな時
考えて動く人がいますか?
自然と体が勝手に動いて
支えようとするでしょう

「ありがとう」の横断幕 それだけで
私が私になれる 私に戻れる
だから「ありがとう」にありがとう
誰かが私のそばにいる
今こそ 明日にリボンをつけよう!
今日こそ 明日にリボンをつけよう!

『クラスター』

なんにもしない
ということを
するということが
どこかの
誰かの
命を
守るということに
つながるかもしれない
そう考えると
無闇やたらと
外出するわけにはいかないし
空気中に漂っているだけで
目的を達成しようとしている
せこい新型コロナウイルスなんかに
負けるわけにはいかない
やることがなさすぎて
昼すぎに起きて
朝ドラの再放送見ながら
屁をこいている
こんな俺でも
どこかの
誰かの
命を
救っているのかもしれない
あんただって
歯間ブラシで歯のそうじをして
耳かきで耳のそうじをして
人差し指で鼻の穴をそうじして
目薬をさしながら昼寝をしている
そんな誰の役にも立っていないはずの
あんたなはずなのに
どこかの
誰かの
命を
救っているのかもしれない
なんにもしていないのに
なんにもしていないということをしているだけで
俺が
あんたが
みんなが
生まれて初めての
スーパースターになれるのかもれない
スーパースター
スーパースター
アイム スーパースター!
ユーアー スーパースター!
ウィアー スーパースター!
さあ! みんな!
スーパースターのクラスターとシャレこもうぜ!

『君を待つ』

待つ
君を待つ
くるか こないか
それは わからない
それでも
待つ
君を待つ
ドキドキしながら
待つ
君を待つ
もし きてくれたら
話そう
あれや これやを
思いながら
待つ
君を待つ
でも 逢ったら 逢ったで
全部 とんじゃって
なにも話せないんだよな これが
もし 逢えなくても
それは それで
ドキドキさせてくれただけでも
ありがたいと思おう
待つ
君を待つ
という詩を書きながら
君を待っている
もうすぐ約束の時間が
くる

『旅をしない旅人』

教師は旅をしない旅人
教室という土地で
出逢いと別れをくり返し
幼すぎる若人に対して教えたのは
国語 算数 理科 社会だけではなく
人の温度
そして優しさは伝わるということ
卒業時の十編の詩
いまでも鍵付き引き出しの中
時間を止めている
六年四組担任及び野球部顧問
伊藤先生
あなたは私の故郷です

『週刊少年ジャンプ』

ぼくは あの時
死にたいと思っていました
いや、厳密に言えば
消えたいと願っていました
ぼくが持っていた
ぼく自身の命とは
そんなにも軽かったのです
それでもぼくは生きました
生きのびることができました
それは なぜか
ぼくの あの時の愛読書は
週刊少年ジャンプでした
北斗の拳のケンシロウや
ドラゴンボールの孫悟空や
スラムダンクの桜木花道が
大活躍していた時代です
一週間に一日だけ
夢の中にいられるのです
人によっては
そんなものが人の命を救うのか
と思われるかもしれませんが
そんなものだからこそ人の命を救うのです
人の命などちっぽけで酷くお粗末で
時に儚いほど哀れなものですが
その軽さゆえ浮力を生むのであれば
その軽さこそ尊いものかもしれません
どうかあなたも
あなたの週刊少年ジャンプに出逢えますように
心より祈っております
あ、それからジャンプの場合ですが
月曜日が祝日の場合は
発売日が土曜日になるので
気をつけてください

生きる

生命保険をかけすぎて
生活が苦しくなっても
日焼けするのが嫌で
引き込もりになっても
部屋をきれいにしすぎて
ホコリアレルギーになっても
車の運転が大好きで
足腰が弱くなっても
イメージトレーニングがうまくいかなくて
苦しむイメージならたやすくできても
「初めまして」と初対面じゃない人に
初めて言われても
手続きは簡単!という難解さに閉口しても
「ごめんなさい」と「すいません」の違いもわからず
申し訳ありませんと謝られても
生きる
ただ生きる
そして
生きつづける
何があっても
何もなくても


   読 書

どうしても欲しい本があったけど
貧乏学生になりたての頃で
どうしてもお金がなかったから
でも、どうしても読みたくて
一冊まるごと立ち読みしてやった
五木寛之先生
どうも、すいませんでした!


   黒帯のぼくが白帯に負けた時

空手の先生は言った
負けた時
その時
その人間の本性が出る
負けた時
その時
何を感じ
何を学び
どう行動するのか
勝者に
一流、二流があるように
敗者にも
一流、二流がある
負けた時
その時
その時からこそ
勝敗をも越える
勝負が始まるのだ


   宣 誓

この世に希望など
ない
この世に無限の可能性も
ない
この世に絶対など
絶対ない
そう自覚し
そう覚悟し
それでも生きてきた

それでも生きている

それでも生きていく

それだけで
ぼくは
ぼくたちは
ぼくたちや私たちを
正々堂々と
抱きしめてもいいのではないか


   つくり笑いの太陽へ

拒食 赤面 勃起不全 早漏
対人恐怖 死別 交通事故
チビデブハゲブスゲスパニック
殺人 絶望 体臭 不眠 ストーカー
病気 不倫 いじめ 離婚 レイプ
破産 倒産 就職難 リストラ
借金 犯罪 自殺 
人の数ほど悩みはあって
星の数ほど悩みはあって
何百万年ほど悩みはあって
解決などしない
正しい答えもない
しかし無駄ではない
と思いたい
人だから悩み
人だから悩まされる
しかし そこから早く逃れようと
近道や安易な逃げ道を探れば
もっと苦しくなる
じたばたするのもよし
じたばたしないのもよし
時が経つのは美しい
いつか いつか
いつか いつか
苦悩と友だちになれたら この苦悩が自分とこの世を
瀬戸際でつなぐ
碇のようになってくれたとしたら
つくり笑いの太陽へ
せめて最高の苦笑いを捧げよう
つくり笑いの太陽へ
せめて最高の苦笑いを捧げよう


   みかんの手

みかん作りを
五十年やっている
タツさんの浅黒い両手は
ごつごつと節くれだっており
所々にひび割れており
皺なのか傷跡なのか
判別しかねる両手をしている
それ以上に
タツさんの両手は
みかんを握る程度にしか
もう曲がることがなかった
それをタツさんは
うれしいと笑う
「もう、こんな手じゃ
握り拳をつくることはできん。
何かを握り潰すこともできん。
それは、うれしいことだ。
そりゃあ、ボタンをはめたりするのに
時間がかかったりするが
不自由じゃない。
できんことがあるということは
実に自由じゃないか。
わしゃあ、この手で
みかんと
孫の手さえ握れれば
もう、それでええ」
みかんを握る程度にしか
曲がらない両手を組んで
そんな話しをしてくれたタツさん
タツさんは
もし あの時
私が右手を差し出していたら
握手をしてくれただろうか


   自 分

相変わらず
三日坊主だけは長続きしている
相変わらず
寝ても覚めてもまだ眠い
相変わらず
俺に使命なんてない
相変わらず
ちゃんと自己嫌悪している自分が好き
相変わらず
よそ見する才能だけはある
相変わらず
得意技は迷子になることである
相変わらず
中途半端だけは貫いている
相変わらず
取り柄がない、という取り柄ならある
相変わらず
馬鹿は死んでも治さない
相変わらず
詩の最後(オチ)を
どうしたらいいのかわからない
ということだけはわかっている
相変わらず
こんなヤツを相も変わらず
鼻で笑ってくれれば
鼻高々です


   左手で書いた字

うーん、全部左手でやらないかんくなったからなぁ
大変だったよ
大変だったけど楽にもなったよ
できることとできんことが
はっきりするようになったからなぁ
そりゃあ楽になったよ
よく子どもたちには無限の可能性がある
なんて言うけど
確かにそうかもしれないけど
ありゃあ考えようによっちゃあ
酷な言葉だぜ
まだ何者にもなれるということは
まだ何者でもないということでもあるからなぁ
自分の才能を信じていたあの頃
どこまで信じていいのか迷ったし
実際彷徨ったし苦しかった
でも今は違う
できることと
できないことが敢然と存在している
それは諦めることとは違う
それが受け容れるということなんだと思う
右手がなくなって十年
左手で書く字が
右手で書いていた頃の時と
よく似ているという手紙をもらった
そんなことが馬鹿にうれしいんだ


   悩むが価値

勉強ができなくて悩んだり
逆上がりができなくて悩んだり
思うようにいかなくて悩んだり
病気を悩んだり
突然の別れを悩んだりと
せっかく悩みがあるのなら
簡単に解決したりせずに
しっかりと悩もう
苦しみ 悩み
悩み続け
考え抜いた答えが
うまくいかなくても
しっかりと悩んだことに
価値があると思い込みたい
そして時には思い詰め過ぎず
逃げろ
逃げる勇気を持て
別に人生は悩まなくても
生きていけるのだから>
もうこれ以上ダメだと思った時
そんな時は
逃げろ
そして生きろ
何もしなくていい
何もしなくていい
何もしないということをすればいい
だから
もうこれ以上ダメだと思った時
そんな時は
逃げろ
そして生きろ
生きて 生きて
ただ生きていてくれ
よろしくお願いします


   綿一〇〇%(めんひゃく)

綿一〇〇%のシャツを洗いながら
母がつぶやいていた
優しいから弱いんよ
優しいもんは弱いんよ
優しいと思っていた
強いと思っていた母が
綿一〇〇%のシャツを洗いながら
つぶやいていた
「綿一〇〇%は優しいから弱いんよ」


   臆病者

臆病者と勇者は
紙一重
ではない

臆病者だから
勇気が出ない
のではない

臆病者にしか
勇気は
出せないのだ


   人生をもっと楽に生きる方法

どうしたら もっと楽になるか
どうしたら もっと楽に生きれるのか
考えるから 苦しいのか
苦しみながら 考えているのか
わからないが
根っからのなまけ者が挑む
ベストセラー間違いなしの
『人生をもっと楽に生きる10の方法』
1 楽をしたら苦しくなる
2 楽しいことのあとは虚しくなる
3 人生はそもそも苦しみの連続である
4 期待をするから期待外れがおこる
5 希望を抱くから失望する
6 夢を見るから絶望する
7 うまい話にはウラがある
8 人生を楽に、楽しく生きる方法をくまなく
9 探してみたが、そんなものはどこにもなかった
10 そうわかった時、少し気が楽になった気がした


   青 春

男なら下駄を
女ならハイヒールをはいたまま
走る
それは背伸びをしている分だけ
転びやすくなるけど
走る
意味もなく
走る
走って走って
転んで 擦りむいて
血流して 唾つけて
立ち上がって
走る
また走る
まだ走る
振り返るのがもったいないくらいに
走る
ひた走る
止まるのが恐いぐらいに
走る
まだ走る
もっと走る
走って走って走り疲れて
辛くなったら
今度は
突っ走る!


   まんじゅう

あんなことがあったから
腹なんかちっとも減らないんだ
食欲もない
眠たくもない
というか寝れない
それなのに
それなのに
腹が「グー」って鳴るんだ
脳が酸素不足になると
あくびが出るっていう話を聞いた
それと一緒か
自分は腹が減っていなくても
胃腸は食い物を要求している
腹が鳴る
あれは命のあくびだったのか
自分の意思とは関係なく
肉体は生きる方向を向いている
心臓から出た血液は
足の小指さえも通って
重力に抗って還ってくる
血液は後ろを振り返らず
前を行く
ただ前を行く
しょうがねぇ
あいつの分のまんじゅうも食っちまおう


   生老病死の根っこ

地球が誕生して四十六億年
私達の下の下の下の
ずっと下には
生きものたちの生老病死が
進化の地層となって
それが私達の根っことなって
私達を支えています

この世に墓地はあるのでしょうか
いいえ、ありません
この世に聖地はあるのでしょうか
いいえ、ありません
見渡す限りの大地
その全てが墓地であり
見渡す限りの大地
その全てが聖地だからです
だからむやみに唾や
吸殻やミサイルなどを
捨てたりしてはいけないのです

いま 人間としての
よろこびを見出すことより
生きものとしての
しあわせを感じる時ではないでしょうか
生きものとしてのしあわせとは
喰って寝て出す
それだけだと思うのです
生きて老いて病んで死ぬ
ただそれだけだと思うのです

ただそれだけなのに
ただそれだけのことさえ許されない
人間の世界とはなんなんでしょう
二〇〇四年の世紀末
まだ二〇〇四年なのに世紀末
もうすぐ初めての子どもが産まれます


   蛇足する勢いで

蛇を描けと
言われた者たちの中で
いちばん速く描いた者が
時間が余ったので
足を付けたし
それは蛇ではないと指摘された
『蛇足』の話
確かに蛇に足があっては
蛇ではないだろうが
蛇を描いたまでの
実力は認めるべきだし
蛇足できるというのは
ひょっとしたら
もの凄いことではないだろうか
きっとその子は
どんなテストの時でも
答案用紙の表など
適当にさっさと終わらせて
答案用紙の裏に落書きを
力一杯していたにちがいない
だから
蛇足する勢いで
蛇足する勢いで
行こう
蛇足する勢いで
蛇足する勢いで
やろう
蛇足する勢いで
蛇足する勢いで
蛇足する勢いそのままで
空飛ぶ蛇を描いてやろう
いつか それが
竜≠ニ呼ばれるまで


   家 族

大ざっぱな嫁さんと
気の小さい息子は
同じ服の脱ぎ方をする
必ず片袖が裏返っているのだ
それを干すたびに
袖を直さなければならず
それはそれは
煩わしくて
面倒臭くて
イライラするので
言ってやった
「おまえ、あの服の脱ぎ方
なんとかならんのか?」
そしたら やっぱり俺たちって
家族なんだなぁっと思ったよ
指摘を受けた嫁さんが一言
「小せぇ男だなぁ・・・・」


   一寸懸命

一生懸命って言葉
好きなんですが
よくよく考えてみますと
一生命を懸けていたら
大変ですよ
命がいくつあっても足りゃしません
で頭をよぎったのは
一瞬懸命という言葉だったのですが
一瞬っていくらなんでも
短すぎてなんだか
やる気があるのかないのか
わかりませんね
ということで
私が編みだしたのは
一寸懸命という言葉です
一寸というのは一尺の十分の一です
およそ3.03cmのことです>
一寸。そう一寸です。
それぐらいだったら
命を懸けれるような気がします
ものすごい分厚い壁も
3.03cm動かすためなら
命を懸けてやれます
将来 右半身不随になっても
ラヴレターの最後の「。」のために
右手を3.03cm動かすことに
命を懸けれます
一寸 3.03cm
毎日やったら一年で約11mです
歩いたらなんでもない距離かもしれませんが
11m垂直に登ってみてください
なかなか登れないですよ
誤って落ちたら死ぬかもしれません
それだけ命を懸けるということは
すごいことなんだと思います
一寸。そう一寸です。
毎日どこかで気軽に
命を懸けてみましょうよ
なんてたって3.03cmですから


   国会中継

変わったところで
私達の生活が
しあわせになると
思ってはいけません
騙されてはいけません
この国の仕組みや
制度の裏にある
仕掛けが変わらなければ
いや、仕掛けがなくならなければ
この国は何も変わりはしません
仕掛けには
同じ意味の言葉があります
『罠』という言葉です


   打倒!電化製品

ピピッピピッピピッ
目覚ましの音で眼を覚まし
すかざずストーブON
冷蔵庫の冷や飯をレンジへ
その隙に洗濯機をまわし
次に顔を洗お・・・・
ピーピーピー
ああ、灯油がないのか
灯油入れるか
ピー
おっ、飯があったまったか
ちょっと待っててくれよー
ピピッ
今度は・・・・冷蔵庫か
ちゃんと閉まっていなかったか
いかん、いかん
ピーピーピー!
うるさいレンジだなぁ
ちょっと待っとれちゅうに
ピー!
今度はなんだ!?
ああ、洗濯機の蓋が開けたままだったのか
ちきしょー、バタンッ
ピピッピーピーピーピーッ!!
ああー!どうなってんだ!
これじゃあ まるで電化製品が主人で
俺が使われているみたいじゃねぇか!
てめぇら全部コンセント抜いてやろうか
電気がなけりゃなにもできねぇくせに
冷蔵庫なんてでっかい顔して冷凍しやがって
なに?電気がなけりゃ
なにもできないのは俺の方だって?
バカヤロー!こちとら
幼稚園の頃から洗濯板使って
園児服洗って育ってきたんじゃい!
俺の静電気で自家発電してやらぁ!!
はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・・・
ピピッ
三十八度二分か
やっぱ ちょっと熱があるなぁ・・・・


   赤い足跡

昔、俺さ、葉っぱを集めるのが好きでさ。
紅葉の季節とかになるとすごくてさ。
もみじなんか見ると
もう片っ端から拾い集めるんだ。
それで何をするかと思えば
きれいに右、左、右、左って並べるんだって。
それをずっと眺めていた母ちゃんが
「なあに、これ?」って俺に訊くんだ。
「足跡」
「足跡?何の足跡?犬?猫?」
「ううん。恐竜。恐竜の足跡」
「恐竜の足跡かぁー。形はそれっぽいねー。
じゃ、なんで赤色なの?」
「火、吐くから」
母ちゃんが大きく笑っていたのを覚えているよ。
そのうち風が吹いたりすると
恐竜の足跡は
跡形もなくなくなっちゃうんだけどさ。
全然、俺、残念そうにしないんだって。
そんなことよりずっと上を見てるんだって。
ちょっと心配になってきたんだろうね。
母ちゃんは「どうしたの?」って
俺の顔をのぞくんだ。
そしたらね。俺ね。言ったよ。
小さい頃の俺は言ったらしいよ。
「さらば、ドラゴン」


   好きな女の子

「JINの好きになる女の子がさ
みんな、かわいい子なのよ。
あいつ完全に外見で選んでるわ!」

「子どもの頃なんて、そんなもんだろ?」

「そぅお?逆じゃない?
小さい時は内面で選んで
大きくなってから
外見で選ぶんじゃないの?」

「そっちのほうが逆だろ!
小さい頃は顔で選んで
大人になってからは
多少ブサイクでも
フィーリングのほうを
重視してっていうふうに」

「じゃあ、あんたはなんで私を選んだの?」

「・・・・」


   タオルからぞうきんへ

タオルの頃は
その人の手や汗や顔を拭いて
きれいにしていた

使い古されたタオルは
やがてぞうきんになり

ぞうきんは
窓を拭いたり
床を拭いたり
便器を磨いたりして
みんなが使う場所を
きれいにしていた

ぼくはこれから
タオルから
ぞうきんになることを
『出世』と呼ぼうと思う


   神経質マン

水筒にお茶を入れ
水筒にお茶を入れ
蓋をしようとして
万が一足りなくなったら
困るので
もうちょっとお茶を足す

就寝前 電気を消して
火の元を確認
二階の寝室に上がる
万が一煙草の火の消し忘れが
あったら困るので
また下へ降りる

一事が万事こんな具合の神経質マン
そんな自分が嫌いなみなさん
そんな自分を好きになる方法があります

お茶を足した時
「俺ってええ奴だなぁ」と思うんです
火の元を二度見した時
「俺ってええ奴だなぁ」と思うんです
家の鍵をかけたか戻ってきた時
「俺ってええ奴だなぁ」とつぶやくんです
目覚ましセット その前にちゃんと鳴るか
今確認した その時
「俺ってええ奴だなぁ」とつぶやくんです

こうすれば神経質な人が
神経質になればなるほど
自分をほめていることになります
こうなったら神経質を治す必要もないですし
逆に神経質のほうがいいぐらいです
どうですか、これ?
けっこう効きますよ
神経質マンの私が言うのだから間違いありません
ただ間違ってほしくないのは
あくまで自分はええ奴″にとどめておいて
いい人″と思わないでほしい
ええ奴″といい人″
なにが違うんだと思われるかもしれませんが
そこは私のちょっとしたこだわりです
神経質なだけに


   今に見て俺

敗北者というのは
負けたあとから
言い訳をする
奴等のことだ
だから
君よ
そして
俺よ
負けても
決して敗れるな


   かすり傷

「これどうしたの?」
君がぼくさえも気づいていなかった
指のかすり傷に気づいてくれたから
ぼくは また明日から
指を傷つけるために
生きようと思った


   二本足

二本足の人間は
つまづき
転ぶことがあるが
四つ足動物たちは
つまづいても
転ぶことは
まずない
だから
転ぶということは
人間の特権であり
そこから立ち上がるのは
人生の始まりであり
醍醐味である
   

   臆病者

臆病者と勇者は
紙一重
ではない

臆病者だから
勇気が出ない
のではない

臆病者にしか
勇気は
出せないのだ



   ぶどう

確かに
それは間違いではないと
思ったから
いや むしろ
命や
血脈
因果や
真実を言い表す
実に見事な
表現だと思ったから
感動したのだ
ぶどうを食べていた
三才の息子
ぶどうの『種』を
ぶどうの『骨』と言った
ぶどうを食べていた
三才の息子が
ぶどうの『種』のことを
ぶどうの『骨』と言った


   びびっていこー

臆病を臆病と認めないことのほうが
よっぽど臆病なことだから
足の奮えなど隠すことなく
さあ 胸を張って
びびっていこー


   哀しいロボット

ニュース番組のロボット特集
踊るロボット
トランペットを吹くロボット
オーケストラが奏でる〈運命〉を
指揮するロボット
それぞれのロボットが健気に
一生懸命にプログラムをこなしていた
そしてアナウンサーは最後にこう言った
「こうしたロボットは早期の実用性が望まれ
将来、人には危険度の高い場所での
活躍が期待されています」
私の脳裏には すぐに
『戦争』が思いついてしまった
てくてくと歩く小さなロボットが
何をするかは知っていても
それがどういうことなのかは
知らされておらず
百km先で大きなキノコ雲をつくるのだ
人は人間にとって
便利なロボットを造りたいはずなのに
どうしてか都合の良いロボットを造ろうとする
人間にとって都合の良いロボットとは
人類にとって脅威になるのかもしれないのに

テレビを見終わった後も
私の中では〈運命〉がこだましていた


   君の名を呼ぶ

「トキさんの旦那さんって
トキさんのことなんて呼ぶの?」
「あぁ?」
「トキぃって呼ぶの?」
「呼ばん」
「おーいって呼ぶの?」
「呼ばん」
「じゃあ、なんて呼ぶの?」
「こらっ!」
「こらっ?」
「そう、こらっ!」
「じゃあ、呼ばれるたびに
まるで怒られてるみたいじゃん」
「そうだよぅ」
「大正(むかし)の女の人は大変だったねぇ」
「大変だったよぅ・・・・」


   あの夏の麦わら帽子

あの夏
ぼくたちは
出逢って別れて
また出逢って別れた
麦わら帽子の君は
「人にしてきた行為(おこない)は必ず自分に返ってくる」
が口癖だった
ぼくは その意味を
瞬く間に知ることになった夏
あの夏
酷く暑かったのは覚えているけれど
どうやって汗をぬぐったのか
その記憶がない
覚えているのは
君が最後に
放り投げていった麦わら帽子
きれいな弧を描いていった麦わら帽子
一夏の未確認飛行物体


   右へ行くか、左へ行くか

右へ行くか、左へ行くか
どちらへ行っても
それは正しくて
それは間違い
忘れていけないのは
右へ行くか、左へ行くか
選ぶことも許されなかった
人達がいるということ
否応がなしに
真っすぐにしか行けなかった
時代もあったということ
ぼくたちの左右の自由は
その道続きに
成り立っているということ
だから
右へ行くか、左へ行くか
どちらへ行くべきか
迷っているのなら
もっと よろこんで迷い
素直に苦しんで
しあわせに悩みましょう


   しっかりと迷え

迷ったら
しっかりと迷え
うっかり出口など探すな
その場に立ち
立ちすくみ
しっかりと路頭に迷え
そして悩み
苦悩し
どうしていいかわからない
自分を見て
自分の身の丈を
哀れ、思い知れ


   向かい風

自分探すな
向かい風探せ
安易な道には罠がある
風の行方を知るために
いつもどこかの汗でいろ


   スイング

他人がどう言おうと
自分がこれだ!
と思ったものには
一生を棒に振れ
それが空振りに終わるか
ホームランになるか
そんなものはわかんねぇけど
とにかく振らなきゃ当たんねぇわけだし
そもそも勝つとか負けるとか
あんまり意味なんかないんじゃないか
それが社会に
受け入られるか否かは二の次であって
それをしなければ自分は呼吸もできない
そんなものに巡りあい
一生を棒に振れたら
それはそれで
そこそこの人生じゃないか
少なくとも見送り三振するよりかは
ずっといいんじゃないか


   サムライ

埃をかぶってるのは
止まっているものだろ
動いているうちは
埃が積もることはねぇんだ
まぁ、埃以上の
怪我をすることもあるが
命取られるわけでもねぇ

古稀を過ぎても なお
三mの脚立の上に立つ
植木職人のОさん
日没前
引き伸ばされた影は
刀のように
大きくて気高い
ラストサムライ
彼にこそ相応しい


   父

いつも働いていた
いつも忙しくしていた
いつも何も語らなかった
いつも眉間に皺を寄せていた
いつも自分を傷つけていた
父の生き方
父の生き様
それが疎ましかった
父は子どもたちにとって足枷だった
子どもたちはどうしても
真っすぐでなければならなかった
曲がることは決して許されていなかった
ぼくは 今
父の三人目の子が生まれた時と
同じ年齢になっていた
責任
扶養

生活
気魄
いろんな言葉が
ぼくを殴っていた
まだ 何も背負っていない
ぼくを殴っていた
まだまだ父の四人目の子どもである
ぼくを殴っていた
ぼくは自分の足元を見た
父という足枷
それは錨でもあったのだ
父という足枷
それは錨でもあったのだ
ぼくは守られていた


   デスクトップ

親父に言わせりゃ
パソコンのデスクトップも
据え置き型


   背泳ぎ

背泳ぎ
またの名を背泳
英語名 バックストローク
私がこの泳ぎ方に
注目したのは
それが生き方の
ひとつの理想形だと思ったからです
失敗してふさぎ込んだ時
誰かが言います
「下を向くな!上を向け!」
また不安や恐怖から立ち止まると
「前へ行け!前へ進め!」
とも言われました
気持ちはわかりますが
上を向きながら前に進めると思いますか?
そんなことしてたら
足元の石ころにさえつまづいてしまいます
しかし!
しかしです
背泳ぎはそれをしています
背泳ぎは見事に
上を向きながら前に進んでいます
呼吸も顔が水面より出ているので
自由自在です
昔はなぜあんなにも
非効率的な泳ぎ方をするのかと
疑問に感じたこともありましたが
あれは泳ぎ方を超越した
ひとつの生き方でもあったのです
時として人命救助の際に広く用いられ
速さより信念を貫くその姿
月並みな表現で誠に申し訳ありませんが
上を向きながら前へ進む背泳ぎ
あなたは強く
そして美しい


   社報 富士

バイト先の休憩室に
無造作に置いてあった
『社報 富士』
その中の社長のお言葉

「誰にでもできる仕事でも
ただ直向きに
一心に打ち込んで
業務に向かえるのは
君にしかできないことかもしれない」

「肉体労働をしていると思うな。
筋トレをしていると思いなさい。
お金をもらいながら
ナイス・バディになれるのだ。
こんなにいい仕事はない」

「私は社長というのは
身分と給料と志の高い
平社員だと思っている・・・・」

私はそこのバイトを一心に
筋トレを四年間も続けさせてもらった
どうも ありがとうございました


   コカコーラ

四人兄弟
1.5リットルのコカコーラ
そのまま飲んだら
すぐになくなっちまう
冷凍庫
まだ氷になりきれていない冷水を
コーラに混ぜて
コーラ薄めて飲むんだぜ
味はとことん薄くても
とっても冷たいコカコーラ
味はとことん薄くても
それはまぎれもなくコカコーラ
だからコーラをそのまま
飲めてたヤツには
絶対 負けたくないし
絶対 負けねぇ
それは試合でも
気合いでも
人生でも
もちろんげっぷでも


   母の口癖

「無料(ただ)より高いものはない」
母の口癖
「口にするのは無料」
これもまた 母の口癖
終始 無言を貫き通した父
ぼくは今 母を想う
掃除 洗濯 料理 後片付け
みんな無料でやってもらっていた
そして「口にするのは無料」なのに
それを労う言葉など
どこにもなかった
だから ぼくは
彼女の手料理を食べる時
必ず言うのだ
「おおっ!うめぇ!うめぇぞ!ちきしょーっ!!」
食べる前から


   ノーコン

真ん中に投げなさい
ど真ん中に
ノーコンのおまえが
アウトロー目がけて
投げようとするから
とんでもないボールになる
真ん中目がけて投げれば
右か左がどっちかに寄る
それで抑えれる球威が
おまえにはある
だから真ん中に投げなさい
ど真ん中に
もし それで
真ん中のボールを打たれたら
よろこびなさい
ようやくコントロールが
できたということなんだから
それからアウトローの練習をしなさい


   歴史的瞬間

全ての日は
誰かの誕生日であり
全ての日は
誰かの命日であり
全ての今日は
名もなき歴史的瞬間である


   忘れもの

「忘れものないよね?」
朝 家を出る時
母はいつも言っていた
その癖ついてか
いつも私は気にして
外へ出るようになっていた
でも いくら忘れものがないと
わかっていても
いつも忘れものをしているような
そんな錯覚が私にはあった
それは忘れものが
家の中にあるのではなく
家の外にあるからかもしれなかった
そして忘れものは
落としものかもしれなかった
それを探すために
私は生きているのかもしれなかった


   やれば できる

やればなんでも できる
とは決して思わない
やれば できるか
できないかがわかる
ただ それだけ
ただ それだけが
もう これだけ


   マイ ホームページ

このホームページは
私の全て
ではないが
私のほとんどではある
私が死んでも
作品は残る
私が死んでも
このホームページは残る
そういう意味では
このアドレス(http://www.me.ccnw.ne.jp/~ab40528/)は
昔つくった秘密基地への合言葉であり
精神の小部屋への暗号でもあり
私の戒名でもある
みなさん どうか
末永いお付き合いをよろしくお願い致します



   ゴッホな時間

狭い部屋に
散れ散れに
裏返ったままの衣服が七つ
オブジェのように
壊れて在る
互いの瞳を鏡にして
ひとときはゴッホな時間
白いシーツのキャンバスに
男と
女の
触覚で描く絵は
誰にも見せることのない
誰も探し出せることがない
祈りにしては長く
旅にしては短い
二人が迷子になるための地図



   うつむいて

うつむいて歩いていた
雑草が咲いていた


   本物と偽物

物には
本物と偽物がある
偽物の中には
良い偽物と
悪い偽物がある
本物は
本物だからといって
その地位に
あぐらをかいていると
良い偽物に負ける


   かけがえのないごみ

誰かを仕打ちするために死ぬことは
格好悪い
自分のためだけに死ぬことは
潔い
昔はそんなことも考えていたけれど
いまは どんな状況下になっても
たとえばぼくが統合失調症になり
隣人を傷つける刃になったとしても
たとえばぼくが麻薬に陥り
アスファルトにキスをする
笑い者になったとしても
たとえばぼくが認知症になり
見境なく垂れ流している
老人になったとしても
ぼくは命を風にするもんじゃないなと思う
誰それに どんな迷惑をかけようとも
そんなことするもんじゃないなと思う
ごみを拾う人は ごみを捨てる人がいて
はじめて ごみを拾うことができるのだ
たとえ精神的にも
肉体的にも社会的にも
ごみのような存在になったとしても
拾う人には
かけがえのない存在(ごみ)であるはずだ
人として生まれ
ぼくになって生きて
人間として生かされて
もしも明日 弱者になったとしても
それは決して敗者ではなく
それは人間(ひと)に優しさを気づかせる
発明者だと思う

   希 望

春の匂い
芽吹く風
希望
この未確認飛行物体よ
応答せよ


   生きる

生きるとは気晴らしだ。


言葉屋 竹藏