男の顔

男の顔は
体だ
生傷が
常になければならぬ
筋肉痛とは
筋トレが生んだ生傷である
ダンベルや
バーベルは重いが
しかし あれはもしかしたら
形を変えた現代の刀かもしれぬ
男の顔は
体だ
生傷が
常になければならぬ



   高校入試狂騒曲

高校入試前日
「腕時計がない!」
「俺のやつ貸したるわ」
「数字しか書いてないやつしかだめなんだって!」
「そんな時計あるかぁ?」

ようやく探し出し
「おまえ、明日の高校の行き方わかってんだよな?」
「うん!一番成績のいいやつと一緒に行くから大丈夫!」
「いやいやいや、成績と行き方は関係ねぇだろ!」

入試当日
「さあ、行くぞ!」
「あ、定規忘れた」
「取ってこい!」
「さあ、行くぞ!」
「あ、シャープペンが一本しかない・・・」
「一本あればいいだろ」
「芯が出ない・・・」
「取ってこい!」
「もう忘れもんないな?」
「ない!と思う・・・あ」
「今度はなんだ?」
「安全運転でお願いします」
「・・・わかっとるわっ!」

電車の乗り方知ってんのかな・・・
親の心配をよそに子どもは
振り向きもせず駅へと歩いていく
うしろ姿 うしろ姿 うしろ姿
もう正直 親としては
高校までついて テスト受けて 無事帰宅したら
それで合格だわ



   しあさってのジョー

走っている
走っている
ずっと走っている
苦しい
苦しいし
足が痛くなる
足だけじゃなく
腕の付け根なんかも痛くなる
なんで俺、こんなことやってんだろ?
自問自答の向かい風
ぜんぜん面白くないし
もちろん速くもない
やがて決めた距離を走り終える
達成感?
ない
開放感?
も、ない
あるのは・・・
なんだろ?
強いて言えば
敗北感?
今日も負けた
今日も思い通りに走れなかった
今日も思ったタイムで走れなかった
今日のラストスパートも自分に負けて
ペースダウンで終わった
負けて負けて負けて
負けっぱなし
それが気持ちいい
それが気持ちいい?
そう、ボロボロになるのが
気持ちいい
まるで『あしたのジョー』のように
ボロボロになるために走っている
と言えばおこがましいが
『しあさってのジョー』ぐらいの気持ちはある
うーん・・・
燃え尽きたいってことだろうか
手っ取り早く燃えたかったから
走っている
いつでも・どこでも・誰でも
走る靴さえあれば
燃えることができる
いや、もしかしたら
走る靴さえもいらない
金も夢も希望もいらない
裸足の孤独さえあれば誰でも
ボロボロに燃えることができる
その時出す炎で
誰かを温めることができるだろうか?
いや、誰も温めることはできない
それは徹底的に自己満足だけだから
自分が燃えて火傷して傷ついて
終わり
自分が燃えて火傷して傷ついて灰になって
それで終わり

いつか見た火柱が天を突く拳に見えた
この身がどうか
その途中でありますように



   五重塔

五重塔を見上げている
そのかっこよさに感動している
美しい立ち姿と
整然と並ぶ
細やかな組手と継手
この形はどこから来たのか
この形は誰が考えたのか
感謝すら覚える
何百年もここに残ってきたことに
継承してきた人々に
守ってきた人々に
翻っては
材料を運んだ人
設計した人
五重塔をつくった人
五重塔の建築を許可した人に
それを見上げて
「へぇー!」と感嘆の声を上げた人々に
歴史的価値とか
文化的役割とか
難しいことはよくわからないが
その垂直に立つ龍の背を
目の当たりにして
私の心はすでに生贄です



   人生と人間

最初は「かっこいい」を
目指していた
それには才能が必要だった

次に「すごい」と言われたかった
ものすごい努力が必要だと感じて
挫折した

やっぱり「おもしろい」が最強だ
しかし何がおもしろいのか
それは非常にむずかしい話だった

そして今 どうしていいのか「わからない」
突っ立ったまんまのぼくを見て

誰かが「かっこいい」と言ってくれ
誰かは「すごい」と言ってくれ
誰かは「おもしろい」と笑ってくれた

ほんとに人生と人間は
つくづく「わからない」ものだと
ぼくは思った


作品集