君の名を呼ぶ

「トキさんの旦那さんって
トキさんのことなんて呼ぶの?」
「あぁ?」
「トキぃって呼ぶの?」
「呼ばん」
「おーいって呼ぶの?」
「呼ばん」
「じゃあ、なんて呼ぶの?」
「こらっ!」
「こらっ?」
「そう、こらっ!」
「じゃあ、呼ばれるたびに
まるで怒られてるみたいじゃん」
「そうだよぅ」
「大正(むかし)の女の人は大変だったねぇ」
「大変だったよぅ・・・・」



   お金では買えないもの

「お金では買えないものがある」と教えられた
「それは なんですか?」と訊いたら
「高いよ」と言われた
「お金・・・とるんですね」



   インドの牛

インドの牛は
なにか悟ったような
そんな眼つきをしていた
「なんだ人間
まだそんなことを考えているのか」
と心の内を
全て見透かされているような気がした
「おまえ達は頭脳が発達しただけで
頭は悪いんだな」
とも聞こえてきた
生きる意味はあるのか、ないのか
死んだらその先どうなるのか
景気はほんとに回復するのか、どうか
彼女はぼくのところに
戻って来るのか、来ないのか
ぼくが牛と会話ができたら
きっと矢継ぎ早に
そう尋ねるだろうけど
インドの牛は
集る蝿を尻尾で払い除けながら
面倒臭そうに言うだろう
「うるさいなぁ、モォー」



   公衆便所の落書き

公衆便所の落書きの決まり文句
SEX
これを書いた奴は
水に流せないものだと思って
ここに書いたのでしょうか
それとも身も蓋もない話だと思って
こんなにもでかでかと書いたのでしょうか
ションベンをしながら
おぼろげに考えていたら
どこかのおじいさんが
落書きを消しにやって来たとみえ
壁に勢いよく水をかけながら
つぶやきました
「これがほんまの尻拭いじゃのぉ・・・・」



  リポビタンD消火器

本を夢中で読んでいたので
煙草を絨毯の上に落としたのに気づかず
なんか焦げ臭いなぁと思ったら
燃えていた!
結構 燃えていた!
消火!消火!
とりあえず消火!
とりあえずどうしようか・・・・
そんなくだらないことを
言っている場合じゃない!
ぼくは さっきまで
夏バテ防止のために飲んでいた
リポビタンDをぶっかけた
それは実に贅沢な消火器であった
その甲斐あってか
火は瞬く間に鎮火した
やったぜ
ここで いつもの決めゼリフ
ファイトー!いっぱーつ!
いやいや、また燃えたら困るんだって・・・・





作品集