最初に范仲淹という人物を知ったのは、『桃花源奇譚』(井上祐美子・著)という小説だった。この小説は、北宋の第四代皇帝・仁宗となる趙受益(趙禎)の青年時代の伝説を描いた冒険活劇で、包拯や狄青といった仁宗の治世で登場する実在の人物らが活躍する。范仲淹は、その物語の中で脇役として登場する。 ここで描かれている范仲淹は、どこか飄々とした態度でありながら芯の通った気配も伺わせる一筋縄ではいかない切れ者の様相が漂う人物だった。このような人物像は、知恵者を表現する上では魅力的に映るもので、登場回数がわずかであるにもかかわらず、主人公達とは違った意味で惹かれるものがあった。 しかし、当初はやはり主人公の宋・仁宗や包拯らの方に興味があり、むしろ范仲淹は、仁宗や包拯らを調べるついでに見ておこうという程度だった。そして、いざ調べてみると、史実の范仲淹は剛直で堅物。小説(『桃花源奇譚』)に描かれていた人物像とは、正反対といっていいくらいにまるで違う印象を受けた。 堅物といえば、普通はあまり面白味がある人物にはならないが、范仲淹の場合は堅物であることが強烈な個性となって、実に興味深い人物に仕上がっていた。死後に評価が高まって名を残すというのも、英傑の個人的な基準の一つと合致していて、范仲淹に惹かれる要因となっている。 范仲淹という人物を知ったことの影響が最も大きかったのは、北宋時代そのものに興味を持ったことかもしれない。それまではやはり三国志が中心で、他の時代は興味がないことはないという程度だったが、それを機に北宋に留まらず唐や南宋、明などにも興味が広がっていった。 歴史に興味を持つようになった原点が諸葛孔明であるなら、その転機となるのが范仲淹だったといえる。そういう理由もあって、歴史との関わりの中では、個人的に范仲淹の存在というのは非常に大きいものがある。
(2009/8/14)
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